失われつつある「良風美俗」
asahi.com の「大学1年の正答率4割弱、漢字能力調査 四字熟語1割台」より引用。
大学生の国語能力の低下を裏付けた形で、勉強や就職への影響を心配し、対策に乗り出す大学も出始めた。
なんとなくだけど、大学(高校、中学校、小学校)で教えたくらいでは、何も解決しないように思います。
問題の本質は、教育ではなく、「今の大人が漢字を使わない」ことにあるような気がします。
言葉というのは日常的なものなので、基礎さえ知っていれば、あとは日々暮らしていく中で自然と(自分で辞書を引くなりして)覚えていくものです。日常で目にすることのないような語は、覚えているほうが不自然で、不合理です。
たとえば、前述の記事(の図)に挙げられている「良風美俗」を Google で検索すると、たったの 170 件しかありません。以下に、他の語の検索結果も列挙します。この「170 件」という数字が、いかに少ないか、実感していただけると思います(「同工異曲」、「安寧秩序」、「軽挙妄動」あたりも、使われない側に分類されても仕方ないように感じます)。
- 大願成就 の検索結果 約 45,400 件
- 同工異曲 の検索結果 約 18,500 件
- 周知徹底 の検索結果 約 1,640,000 件
- 安寧秩序 の検索結果 約 10,700 件
- 良風美俗 の検索結果 約 170 件
- 唯一無二 の検索結果 約 391,000 件
- 軽挙妄動 の検索結果 約 12,900 件
- 遺憾千万 の検索結果 約 27,800 件
- 金科玉条 の検索結果 約 49,600 件
- 天涯孤独 の検索結果 約 527,000 件
これほどまでに使われていない「良風美俗」を、学校で教えたくらいで覚えることができるのでしょうか。また、こんなに稀な言葉を教えるべきなのでしょうか。
日常で使われない語を教えても(試験に出しても)、そんなのを真面目に覚える学生はいません。
使われない言葉は失われていくし、必要な言葉は新たに創造されます。それが「生きている国語」だと思います。
もし、言葉が失われていくのが嫌ならば、教育に文句を言う前に、まず自分が率先して使うことが大事だと思うのです。自分で使わないくせに「最近の若者は言葉を知らん」などと言うのは、無責任だと思います。
例えば新聞などでは、「し烈(熾烈)」、「ら致(拉致)」などの混ぜ書きが定着していますし、市町村や団体の名称も(対応する漢字があるのに)わざわざ平仮名を使ったりします。つまり、大人たちのほうから「漢字は難しいから使わなくてもいいんだよ」的なメッセージを発信しているのです。こんなに漢字を嫌っている大人たちが、今更何を言っても、説得力のかけらもありません。
私たちは、もっと積極的に漢字を使うべきだと思うのです。それ以外には、漢字能力を維持する方法はないと思います。話は簡単で「使わない言葉は失われる」というだけのことです。学校がどんなに頑張っても、焼け石に水だと思われます。
今まさに失われかけている「良風美俗」を守りたいならば、守るべきだと思うならば、これを使った文章を、もっともっとたくさん書く必要があります。
そんなわけで、言葉が失われるのが嫌な私は、なんとかして「良風美俗」を使った文章を書こうと思うのですが……、人格レベルからして良風美俗とは無縁な私には到底不可能な課題であることに気付いてしまうのでした。